この記事では、法人格を取得してタクシー事業を開業する場合における許認可の申請について解説していきます。そもそもタクシー事業の許可は一般乗用旅客自動車運送事業許可が正式名称となっていますが、許認可申請の中でも難易度が高く、中にはご自身で申請をしてみたけれど「なかなかスムーズに許可が下りない」という経験をされた方もいることでしょう。
そんなみなさまのために、まずは法人タクシーの許可基準についてわかりやすく解説いたします。
目次
1、許可の概要
国土交通大臣の許可
2、許可基準
①営業区域
1.各運輸局長が定める営業区域を単位とする。定めのない営業区域については原則として市郡単位
2.営業区域に営業所を設置するものであること
このように規定されています。わかりやすく言うとご自身が事業所を設置する地域ごとに管轄が決まっているということです。下記に今後の申請先窓口となる各運輸局へのページリンクを張り付けておきますので参考にしてください。
【参考情報】
②営業所
1.営業区域内にあること
2.申請者が、土地、建物について3年以上の使用権原を有するものであること
3.建築基準法、都市計画法、消防法、農地法等関係法令に抵触しないものであること
4.事業計画を的確に遂行するに足る規模のものであること
このように規定されています。ここでは難しく考えずに日常的に運行管理及び利用者への営業上の対応を行う事務所と考えてください。
この営業所の所在地ですが、営業区域内に設置しなければなりません。なお、営業区域が複数にわたる場合には、それぞれの営業区域に営業所を設置しなければなりません。
次に営業所となる土地や建物に関してですが、営業所には使用権原を有することが求められます。なお、ここでいう使用権原とは所有権や賃借権等であり、要するに自己の所有物件又は賃貸借契約等を結んで使用している営業所でなければならないということです。
・自己保有の場合は登記簿謄本
・借用の場合は契約期間が概ね3年以上の賃貸借契約書を提示又は写しを提出
新しく事務所を新設する場合は?
賃貸借契約期間が3年以上と規定されていますが、契約期間満了時に自動的に契約が更新されるものと認められる場合には、例外的に使用権原を有するものとみなされますので、賃貸借契約書(契約更新)をご確認ください。
③事業用自動車(タクシー車両)
タクシーとして使用する車両は、申請人(代表者)が使用権原を有するものであることが必要となりますので、車両の所有者名が法人名になっていることをご確認ください。
もし車両がリースの場合にはリース契約が1年以上であることをご確認ください。
事業用自動車は、申請者が使用権原を有するものであることが必要です。まなお、リース車両についてはリース契約期間が概ね1年以上であることとし、契約書の提示又は写しの提出をもって使用権原を有するものとみなされます。
④タクシー車両の台数
車両の台数は営業所を営む地域によって異なります。ご自身が申請を行う各運輸局へお問合せください。
なお、各運輸局で車両台数を定めていない場合には2両以上が必要となります。
また、同一の営業所区域内に複数の営業所を設置する場合、合計車両台数で判断されますが、各営業所ごとに5台以上の配置が必要となります。
(参考例)
愛知県内に3営業所を開設する
全体保有台数:15台
各営業所設置台数:5台
最低15台が必要になるというわけです。
⑤車両の車庫
- 原則として営業所に併設されていること
- 営業所に併設できない場合は、営業所から直線距離で2kmの範囲内にあり、運行管理をはじめとする管理が十分可能な場所にあること
- 車両と自動車車庫の境界までの間隔が50cm以上確保されていること
- 車両と車両の間隔が50cm以上確保されていること
- 営業所に配置する事業用自動車の全てを収容できること
- 他の用途に使用される部分と明確に区画されていること
- 土地・建物について3年以上の使用権限を有すること
- 建築基準法、都市計画法、消防法、農地法等関係法令に抵触していないこと
- 事業用自動車の点検、整備及び清掃のための施設が設けられていること
- 事業用自動車の出入りに支障がなく、前面道路が車両制限令に抵触していないこと
- 車庫前面道路が私道の場合は私道について使用権原を有する者の承諾があり、かつ私道に接続する道路が車両制限令に抵触していないこと
このようにタクシー車両を駐車保管する場所には様々な規定があります。中でも時に注意が必要なので「7」です。予定となる事業所が自己所有名義なら問題ありませんが、これから新たにタクシー営業所用の土地を借りて事業の開始を予定する場合にはクリアできません。
そんな事情を考慮して特別な規定が設けられています。それは「自動更新条項」の記載の有無です。
マンションなどの契約書等の大半は記載されていますが、「解約の申し出がない場合は自動更新とする・・・」といった文言が入っていれば問題ありません。
営業所用の賃貸借契約は「事業用」での契約が必要です。契約時には事前に確認しておきましょう。
⑥休憩、仮眠又は睡眠のための施設
これは事業所に従事するタクシードライバーの休憩室に関する規定となりますが、基本的に前述の②⑤の基準を満たしていれば問題ありません。
- 原則として営業所又は自動車車庫に併設されていること
- 営業所・自動車車庫に併設できない場合は、営業所及び自動車車庫のいずれからも直線距離で2km以内の範囲内であること
- 事業計画を適切に遂行するための規模があり、適切な設備を有すること
- 土地・建物について3年以上の使用権限を有すること
- 建築基準法、都市計画法、消防法、農地法等関係法令に抵触していないこと
⑦管理運営体制
ここでは具体的な運営能力について問われることになります。資格取得者についての要件を注意しながら読み進めてください。
- 法人の役員のうち1名以上が専従であること
- 営業所ごとに、配置する事業用自動車の数により義務づけられる常勤の有資格の運行管理者の員数を確保する管理計画があること
- 運輸規則に基づき運輸局長が指定する地域において運行管理者資格者証の交付を受けた者を運行管理者として選任する場合には、申請に係る営業区域において5年以上の実務の経験を有するものであること
- 運行管理を担当する役員等運行管理に関する指揮命令系統が明確であること
- 自動車車庫を営業所に併設できない場合は、自動車車庫と営業所とが常時密接な連絡をとれる体制が整備されるとともに、点呼等が確実に実施される体制が確立されていること
- 事故防止についての教育及び指導体制を整え、かつ、事故の処理及び自動車事故報告規則に基づく報告等の責任体制その他緊急時の連絡体制及び協力体制について明確に整備されていること
- 運行管理規程が定められていること
- 運転者として選任しようとする者に対する指導を行うことができる体制が確立されていること
- 運転者に対して行う営業区域内の地理及び利用者等に対する応接に関する指導監督に係る指導要領が定められていることとともに、指導監督を総括処理する指導主任者が選任されていること
- 原則として常勤の有資格の整備管理者の選任計画があること
- 整備管理者を外部委託する場合は、事業用自動車の運行の可否の決定等整備管理に関する業務が確実に実施される体制が確立されていること
- 利用者等からの苦情の処理に関する体制が整備されていること
現時点では、上記のうち「3」「10」が問題になってくる可能性があります。ただし「10」については外部委託が認められているので、基準を満たした自動車整備工場への委託をすることで解決できます。
問題は「3」です。
(例)
・名古屋市内で営業所を開設予定である
・運行管理者は有資格者であるAさんを選任する
・Aさんは5年以上名古屋市でタクシーの常務経験がある
このようなAさんなら運行管理者の基準は満たしているため「3」をクリアできるということになります。
将来のために運行管理者を育成しておくことも必要であるため、参考までに試験センターを紹介しておきます。→「公益財団法人 運行管理者試験センター」
⑧運転者
雇用するタクシードライバーに関する基準です。この基準は開業後の雇い入れ時も同様なので、現時点でドライバー基準を把握されておくと良いでしょう。
- 二種免許を保有する運転者を車両台数以上確保していること
- 適切な乗務割、労働時間、給与体系を前提としたものであって、労働関係法令の規定に抵触するものでないこと
- 運転者は以下に該当する者でないこと
- 日日雇い入れられる方
- 2か月以内の期間を定めて使用される方
- 試用期間中の者(14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く)
- 14日未満の期間ごとに賃金の支払い(仮払い、前貸しその他の方法による金銭の授受であって実質的に賃金の支払いと認められる行為を含む)を受ける者
- 定時制乗務員を選任する場合には、適切な就業規則を定め、適切な乗務割による乗務日時の決定等が適切になされるものであること
「1」の二種免許所得に関しては、ご承知の方が多いかと思います。ただ、この記事を投稿した2023年末時点では、タクシー不足が社会問題となっており「二種免許撤廃?」という議論がなされています。
⑨資金計画
次は資産要件に関する内容です。わかりやすくいうと、開業時にどれくらいのお金を持っているかということです。
解説を交えて解説していきます。
1.所要資金の見積もりが適切であり、かつ、資金計画が合理的かつ確実なものであること
2.所要資金の50%以上、かつ、事業開始当初に要する資金の100%以上の自己資金が、申請日以降常時確保されていること
まず1の「見積もりが適正で資金計画が確実なこと」に関しては、社会通念上(常識的)に相当と思われる金額なら問題ありません。
そして2番ですが、その確認が2度行われます。事業資金を100万円とするなら
・申請時
・許可時
の2回に渡り確認が行われます。
申請からの審査期間が数日なら問題はないでしょうが、このような許認可は通常で数カ月の期間を要します。
その間、そのお金を所持しなければならないということは、「ちょっと貸して・・・」では対応できないというわけなのです。
⑩法令遵守体制
- 申請者が法人である場合、その法人の代表権を有する常勤の役員(代表取締役)が事業を適正に遂行するために必要な法令の知識を有していること(法令試験に合格していること)
- 申請者及び役員が欠格事由に該当していないこと
結論からいうと、「きちんと法律を守れる人で法令試験に合格している人」ということです。
法令試験
法令試験は以下のような形式で毎月1回実施されます:
- 試験形式: 正誤式、語群選択式、記述式の問題があり、合計30問出題されます。
- 合格基準: 正解率が80%以上であることが必要です。
- 資料の持ち込み: 試験時には限定的ではありますが、書籍などの資料を持ち込むことが可能です。
もし試験に不合格だった場合、以下のルールが適用されます。 - 再試験の機会: 不合格の場合、1回限りの再試験を受けることができます。
- 再試験の結果: 再試験でも合格しない場合には、申請は却下されます。その後、もう一度申請をやり直す必要があります。
欠格事由
個人タクシーの許可を取る際の欠格事由は、国や地域によって異なる場合がありますが、一般的に以下のような事項が考慮されます:
- 犯罪歴: 重大な犯罪や交通違反の記録がある場合、特に暴力犯罪や運転に関連する犯罪(飲酒運転、薬物運転、重大な交通事故の引き起こし等)があると、許可が下りない可能性が高いです。
- 精神的・身体的健康状態: 運転に必要な身体的、精神的健康状態を満たしていない場合、許可されないことがあります。視力や聴力の問題、精神疾患、特定の健康状態が運転能力に影響を及ぼすと判断された場合がこれに該当します。
- 財政状態: 債務不履行や破産歴がある場合、信頼性に疑問が持たれ、許可が下りにくい場合があります。
- 交通法規違反: 過去に多数の交通違反を行っている場合、特に反復して違反していると許可を得るのが難しい場合があります。
- 年齢要件: 最低限の年齢要件(例えば21歳以上など)を満たしていない場合、許可されないことがあります。
- 運転免許証の状態: 有効な運転免許証を保持していない、または運転免許が取り消されたり停止されている場合は、許可されない可能性が高いです。
- 麻薬やアルコールに関する違反: 薬物やアルコール依存症の歴史がある場合、許可されないことがあります。
⑪損害賠償能力
旅客自動車運送事業者が事業用自動車の運行により生じた旅客その他の者の生命、身体又は財産の損害を賠償するため講じておくべき措置の基準を定める告示で定める基準に適合する任意保険又は共済に計画車両の全てが加入する計画があること。
簡単に言うと、旅客輸送を行う会社は、事故が起きた時に備えて、自分たちが使用する車両全てに対して、政府が定めた基準に合致する保険や共済に加入しておく必要があるということです。これは、もし事故が起こった場合に、被害を受けた人々への補償をしっかりと行うための準備です。
まとめ
いかがでしたか。これから法人タクシーとして事業の開始を検討されている方におかれましては、まず必要となる許可に関する要件を解説してみました。
私が思うに、営業所や車両といった「物」に関しては、何らかのかたちで基準をクリアできるのでしょうが、本記事内の7,運行管理体制③の
運輸規則に基づき運輸局長が指定する地域において運行管理者資格者証の交付を受けた者を運行管理者として選任する場合には、申請に係る営業区域において5年以上の実務の経験を有するものであること
この運行管理者の選任で、「適任者がいない」という問題になるケースがあるかと思います。
このようなことも含め、法人タクシーでの開業においてのご相談を受け付けておりますので、是非ご利用ください。